「10円」の次は?需給調整市場が5円になっても蓄電池は投資対象になるのか

2026年9月1日実需給分から、需給調整市場のうち一次調整力・二次調整力①・複合商品のΔkW上限価格が10円/ΔkW・30分へ引き下げられました。

この変更を見て、

「10円になったら、もう蓄電池は稼げない?」
「さらに価格が下がったら、投資対象ではなくなる?」

と気になる方もいるのではないでしょうか。

結論からいうと、上限価格が下がったという事実だけで、蓄電池が直ちに投資対象ではなくなるとは判断できません。

蓄電池の事業性は、市場価格だけでなく、設備投資額、運用期間、約定状況、設備利用方法、維持管理費など、さまざまな条件によって変わるからです。

実際、国の検討資料でも、複数の価格水準や設備コストなどを設定した蓄電池事業の収益性モデルが示されています。

今回は、現在の10円という上限価格を確認したうえで、さらに5円という価格水準を仮定した国のモデルケースから、今後の系統用蓄電池投資について考えてみます。

目次

そもそも「10円になった」とは?

まず、「需給調整市場が10円になった」という表現について整理しておきましょう。

需給調整市場は、電力の需要と供給のバランスを調整し、電力系統の安定運用に必要な「調整力」を取引する市場です。

蓄電池は短時間で充放電を切り替えられることから、一定の要件を満たすことで調整力を提供するリソースとして市場に参加できます。

2026年9月1日実需給分から10円/ΔkW・30分となったのは、

  • 一次調整力
  • 二次調整力①
  • 複合商品

のΔkW上限価格です。

一方、二次調整力②・三次調整力①については7.21円/ΔkW・30分が継続され、三次調整力②には同様の上限価格は設定されていません。

つまり、「需給調整市場のすべての商品が10円になった」という意味ではありません。

また、ここでいう10円は、

「蓄電池を運用すれば必ず10円で約定する」

という意味でもありません。

あくまで対象商品のΔkW価格に対する上限価格です。

実際の収益は、応札価格、約定価格、約定量、約定状況、設備容量、運用方法、アセスメントなど、さまざまな条件によって変わります。

10円になったら「収益がなくなる」わけではない

上限価格が下がると、

「単価が以前より低くなった=もう投資として成立しない」

と考えてしまいがちです。

しかし、蓄電池事業の収益性は単価だけでは決まりません。

設備をいくらで導入できるのか。

どの程度市場で約定できるのか。

何年間運用するのか。

維持管理にどの程度の費用がかかるのか。

こうした条件を組み合わせて、事業全体の収支を見る必要があります。

経済産業省の検討では、実際の応札状況や事業者へのヒアリングなどを参考に、

稼働年数:10年・15年
約定量:2ブロック/日(6時間相当)
時間率:4時間率
CAPEX:4~8万円/kWh

など、一定の条件を置いた蓄電池事業の収益性モデルが示されています。

そのモデルでは、例えば**CAPEX 6万円/kWh、10年間運用、10円/ΔkW・30分で継続的に約定するケースで、IRR(内部収益率)10.3%**という試算結果が示されています。

※これは経済産業省の政策検討資料における特定の前提条件を置いたモデルケースであり、RENON POWERによる収益予測ではありません。また、実際の案件における収益やIRRを保証するものではありません。

この試算から分かるのは、「10円なら必ずこの収益が得られる」ということではなく、市場価格だけでなく設備コストや運用期間などによって事業性が変わるということです。

では、もし「5円」になったら?

ここからが今回の記事の本題です。

もし将来、5円/ΔkW・30分という価格水準になったらどうなるのでしょうか。

まず重要なのは、現時点で一次調整力・二次調整力①・複合商品の上限価格を5円へ引き下げることが決定している、という意味ではありません。

ここでは、国の収益性分析で用いられた5円という価格条件を使い、事業性がどのように変わり得るのかを見てみます。

※以下のIRRは、経済産業省の検討資料において、約定量2ブロック/日(6時間相当)、4時間率の蓄電池など、特定の前提条件を置いて算出されたモデルケースです。RENON POWERによる収益予測ではなく、実際の投資成果を保証するものでもありません。

国のモデルでは、5円/ΔkW・30分の場合、10年間運用では、

CAPEX 4万円/kWh → IRR 4.1%
CAPEX 5万円/kWh → IRR 0.0%
CAPEX 6万円/kWh → IRR -3.2%

という試算結果が示されています。

一方、15年間運用するモデルでは、

CAPEX 4万円/kWh → IRR 9.3%
CAPEX 5万円/kWh → IRR 5.8%
CAPEX 6万円/kWh → IRR 3.2%

となっています。

この結果からも、「5円になれば必ず投資対象ではなくなる」あるいは「5円でも必ず事業が成立する」と一律には言えないことが分かります。

設備コストや運用期間などの前提条件によって、試算結果は大きく変わります。

「5円でも投資対象になり得る」ではなく「条件次第で結果が変わる」

ここで特に注意したいのが、IRRの数字だけを切り取って判断しないことです。

例えば、

「15年間なら5円でもIRR 5.8%」

という数字だけを見ると、5円でも十分に収益を得られるように見えるかもしれません。

しかし、これはあくまでCAPEX 5万円/kWh、15年間の運用など、特定の条件を置いたモデルケースです。

同じ5円でも、CAPEXが6万円/kWhになればモデル上のIRRは3.2%に変わります。

逆に、設備コストをさらに抑えられれば結果も変わります。

さらに実際の案件では、

  • 土地取得・賃借費用
  • 系統連系費用
  • EPC・工事費
  • 維持管理費
  • 蓄電池の劣化
  • 充放電ロス
  • 資金調達条件
  • 市場の約定状況
  • アグリゲーション等に関する費用

なども考慮する必要があります。

したがって、

「5円だから投資価値がない」

あるいは、

「5円でもIRRが出るから投資できる」

と単純に判断するのではなく、自社の案件条件を使って個別に事業性を確認することが重要です。

価格が半分になったら、収益性も単純に半分?

もうひとつ注意したいのが、

「10円から5円になったら、収益性も単純に半分になる」

とは限らないことです。

系統用蓄電池事業には、設備価格、土地、工事、系統連系、保守など、さまざまなコストがあります。

一方で、設備導入コストが変化すれば、必要となる投資額も変わります。

国のモデルケースでも、同じ市場価格であってもCAPEXが低くなるほどIRRが改善する傾向が示されています。

つまり今後は、

市場価格がどうなるか

だけではなく、

蓄電システムをどの程度のコストで構築・運用できるか

も、これまで以上に重要になってきます。

需給調整市場だけで考えないことも重要

系統用蓄電池の運用では、需給調整市場だけでなく、卸電力市場や容量市場など、複数の市場・制度を活用する事業モデルも検討されています。

例えば、卸電力市場では時間帯による価格差を活用した充放電を行い、需給調整市場では調整力を提供するなど、蓄電池の特性を活かした運用が考えられます。

ただし、ここで注意したいのは、

「卸電力市場+需給調整市場+容量市場の収益を、そのまま全部足せる」わけではない

ということです。

各市場には参加要件や供出義務があり、同じ時間帯に同じ蓄電池の能力を複数の用途へ自由に使用できるとは限りません。

そのため実際には、各市場の参加要件、供出義務、SOC、設備能力、運用上の制約などを踏まえ、利用可能な範囲で複数の収益機会を組み合わせることになります。

需給調整市場の上限価格だけを見て蓄電池事業全体の収益性を判断するのではなく、設備全体をどのように運用するかという視点が重要です。

これからは「高単価だから稼げる」から「事業設計を見る」へ

市場への参入が増え、制度や競争環境が変化していけば、現在の価格環境が将来もそのまま続くとは限りません。

だからこそ今後は、

「高い価格で約定できるから投資する」

という考え方だけではなく、

「市場環境が変化した場合でも、どの程度事業として成立できるか」

を検討することが重要になります。

例えば、

  • 設備導入コストをどこまで抑えられるか
  • どの市場への参加を想定するか
  • どの程度の約定状況を前提にするか
  • 何年間運用するか
  • 劣化や保守費用をどう見込むか
  • 市場環境の変化をどの程度織り込むか

といった条件によって、同じ蓄電池でも事業性は変わります。

市場価格の一つの数字だけではなく、複数の条件を変えたシナリオで収支を確認することが大切です。

まとめ|「10円になった」だけで蓄電池投資を判断しない

2026年9月1日実需給分から、一次調整力・二次調整力①・複合商品のΔkW上限価格は10円/ΔkW・30分へ引き下げられました。

しかし、

「10円になったから蓄電池は稼げない」

と上限価格だけで判断することはできません。

また、国のモデルケースでは5円/ΔkW・30分という条件での収益性も試算されていますが、その結果は設備コストや運用期間によって大きく異なります。

したがって、

「5円でも大丈夫」

と一律に考えるのも適切ではありません。

重要なのは、

「市場価格はいくらか」
だけではなく、
「いくらで設備を構築し、どの条件で、何年間、どのように運用するのか」

まで含めて考えることです。

これから系統用蓄電池を検討する際は、現在の市場価格だけを見るのではなく、複数の市場価格や設備コストを想定したシナリオで事業性を確認するという視点を持っておきたいところです。

参考情報

本記事の需給調整市場に関する制度・上限価格については、電力需給調整力取引所(EPRX)および経済産業省・資源エネルギー庁の公表資料を参考にしています。

また、本記事で紹介したIRRは、経済産業省の政策検討において示された蓄電池事業の収益性に関するモデルケースをもとに記載しています。

※本記事に関する注意事項

本記事は、2026年9月時点で公表されている情報に基づく一般的な情報提供を目的としています。

制度、市場ルール、上限価格、商品要件、参加要件等は今後変更される場合があります。実際の適用条件については、経済産業省、資源エネルギー庁、電力需給調整力取引所(EPRX)、OCCTO等が公表する最新の規程・資料をご確認ください。

また、本記事で紹介したIRRその他の収益性に関する数値は、国の検討資料で示された一定の前提条件に基づくモデルケースであり、RENON POWERによる収益予測や投資成果の保証を行うものではありません。

実際の収益性は、設備費、土地・工事・系統連系費用、維持管理費、市場価格、約定状況、設備劣化、運用期間、資金調達条件、市場参加要件その他の個別条件によって異なります。

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